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2004.8.17


第10話 城砦崩壊(1)



 「うははははは! ついに! ついに完成したぞ!」
 とある魔法の実験に成功した。黒馬にスカウトされてから9ヶ月。ついに完成した。
 「くははは! セラ! 待っていろよ!」
 笑いが止まらん。
 「今晩にもやりたいのだが、今日に限っていねぇし。どこに行ったんだ?」
 今日は珍しく、俺の他に誰もいないのよな。
 フレリアはいつも通り、デッドクレストを探しに出かけている。
 リリスはオグちゃんに会うためにどこかに出かけている。
 セラはどこに行ったのか。
 「最近はよくいなくなるんだよな。どこに行ったんだ?」
 今日は日曜日で黒馬ビルのほとんどが休んでいる。
 「それより、腹減ったな。冷蔵庫でも漁ってくるか。」
 まぁ、セラがいなければ意味がないものだ。まずは腹ごしらえでもしてゆっくり待ちますかな。

 「寂しい・・・。」
 夜12時をまわっているのに誰も帰ってこない。フレリアが帰ってこないことはよくあるし、リリスはオグちゃんと久しぶりに再会して話が盛り上がっているだろうし、この2人は予想していたさ。しかし、セラはどうしたんだ?
 セラは俺の助手だ。今の所、それ以外の仕事はないはずだ。
 「心配だな・・・。」
 久しぶりにやってみますか。
 意識転送陣。意識だけを遠くに飛ばして遠くの風景を見ることのできる魔法だ。主に覗きをするために使う。
 ベッドへ横になり、魔法発動。俺の意識が肉体から離れ、遠くへ飛んでいく。そして、目的のセラを見つける。

 ここはどこだ?
 セラはデスクトップに向かってキーボードを叩いていた。部屋に明かりはなく、デスクトップ画面だけが光ってセラの顔を照らしている。
 何をしているのかなってデスクトップ画面を覗いてみるのだが、よく分からないコマンドや記号が並んでいるだけで全く分からん。
 しばらくセラの様子を眺めていたら、セラが突然パソコンの電源を切って物陰に隠れた。そして数秒後、部屋のドアが開いて懐中電灯の光が中を照らす。警備員みたいだな。警備員はセラに気付かずにドアを閉めて去っていく。
 どこかに潜入してスパイ中ですか。全く、俺に断りもなく危険なことをして。
 暗闇の中でセラが動いた。どうやらここから退散するらしい。そして、数分後には難なく外に出て誰にも気付かれることなく逃げてしまうのであった。
 胸はでかいくせになかなかやるな。

 「あ。」
 魔法の効果が切れてしまった。
 「どこにスパイに行っていたんだ?」
 全く、俺の助手だけしていれば楽なのになぁ。
 「セラの部屋をちょっと覗いてみるか。」
 もうしばらくは帰ってこないだろう。せっかくここには俺しかいない。
 「よし! やるぞ。」
 なんだかんだ言ってここに来てから9ヶ月の間、セラの部屋には入ったことがないのだ。セラの部屋だけなんだ。入ったことがない部屋は。
 日付が変わっているから昨日、完成したばかりの新魔法だ。
 「通過方陣!」
 魔法発動と同時に壁に向かって歩き出す。この壁の向こうはセラの部屋だ。そして、俺の体がその壁を通り抜けた。
 「ここがセラの部屋か。」
 女の子らしい内装で、きちんと生理整頓されていてゴミ一つ落ちていないのがセラの性格を思わせる。
 「んー。これと言って怪しい物はないな。」
 何にもねぇな。今さらクローゼットを開けて下着を探すのはあれだしな。
 「マンガがないぞ。」
 セラの本棚にはなにやら難しい分厚い本や事典がたくさん並んでいた。
 「セラの日記とかないか?」
 試しにパソコンの電源を入れてみた。
 「パスワード?」
 パスワードか。俺の名前でも入れてみるか。eruhaundiea、とな。
 ・・・違うな。んじゃ、逆から入れてaeidnuahure、とな。
 「あ。」
 入ってしまった。俺の名前かよ!
 「ぶ! デスクトップの壁紙が・・・。」
 俺だった。なかなか男前に撮れているじゃないか。
 「なんだ? この『エル様観察日記』って。」
 そんなフォルダがあるから開けてみた。
 「パスワード?!」
 またパスワードか。
 今度はerusamadaisukiってな。おう。入ってしまった。このパスワードはやばいって。
 「おとといの日付だな。」
 試しに開けてみた。
 「やぁ〜ん。そのまんまじゃねぇか。観察日記って。」
 俺の行動が事細かに書かれていた。ストーカーじゃん。本当に俺の助手って言うのは建前で、本当は俺を監視するクロウの差し金なんじゃねぇのか?
 「次。お、これはセラの日記ではないか。」
 『Diary』と書かれたフォルダを発見した。またパスワードを訊かれる。
 「ネタがないな。う〜ん、michadameyoとか。」
 ダメだった。ならば・・・。その後、考えられる限りのパスワードを入れてみるが、ダメだった。
 「ちぃ。諦めるか。ん?」
 ragnarokって名前のフォルダを見つけた。どこかのオンラインゲームの資料とかか?
 「ちぃ、またパスワードかよ。」
 どのフォルダもパスワードを訊かれるじゃないか。
 「あ。」
 また思いつく限りのパスワードを打ち込んで見ようと思ったら、eruで通ってしまった。
 「俺の名前関係ばっかじゃん。」
 素直になれないだけで脈ありと見た。これならば夜這いをしてもあまり怒られることはあるまい。セラが帰ってくるのが楽しみだ。
 「・・・って、これ。」
 やばいことが書いてあった。


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