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2004.8.17


第10話 城砦崩壊(2)



 パソコンの電源を切って、壁を通り抜けて部屋に帰ってきた。
 「セラ・・・。」
 初めてセラとの生活に後悔を覚えた。その夜は眠れずに朝を迎えた。
 まもなく起きる時間。いつもならばセラが起こしにやってくる。しかし、今日はセラとまともに顔を合わせられない。
 時間になる前に部屋を出た。
 リビングまで行くとキッチンに人の気配を感じた。食堂にはすでに出来上がった料理が並べられている。そこからこっそりキッチンを覗くと、セラが鼻歌を歌いながらフライパンを振っていた。
 どう顔をあわせればいいのか。あれを見たことをセラに気付かれてはいけない。
 下手すれば殺される。
 食堂を後にして、とりあえず顔でも洗って落ち着こう。昨晩は寝ていないから思考がネガティブなんだ。冷たい水で顔と頭を洗って頭をスッキリしよう。
 「あ、エル様! おはようございます!」
 後ろからセラの声が聞こえた。気付かれないように自然に、自然に。
 セラの方を振り返って笑顔を作り、挨拶を返す。少し顔が引きつっていたかも。俺の異常を察したのか、セラの眉間にシワが寄る。
 「エル様。昨日は眠れませんでした?」
 まぁ。くまでもできているのかな。
 「まぁ、ちょっとゲームに没頭してしまってな。」
 ひらひらと手を振って洗面所に向かう。
 顔と頭を洗って食堂にやってくる。冷たい水を頭に浴びて、だいぶ頭がスッキリした。気付かれないように振舞わなければ。
 「セラ、昨日はどこに行っていたんだ?」
 見ていたのだから何をしていたのかは分かる。この問いはいつものものだ。セラが夜に帰ってこない時はいつも問う。
 「情報収集です。侵入に時間が掛かってしまって。」
 どこって肝心の答えがないのだが・・・。
 「夜更かしは肌に悪いからほどほどにしろよ。」
 とか言っても全然聞かないのだがな。
 「今日は早く寝ますね。」
 まぁいいか。
 う〜ん、美味そうな朝食だ。低血圧で食欲がない朝でもこの美味そうな匂いは食欲をそそる。朝から美味い食事をして元気が出てくる。
 あそこで見たことは忘れよう。見なかったことにすればいい。そうすればいつまでもこのまま幸せな時が続く。
 「エル様。訊いてもいいですか?」
 食事をする俺の隣にセラが座る。やっぱりばれていたか?!
 「な、なんだ?」
 思わず返事に詰まってしまった。余計不振に思われてしまったかもしれない。
 「今朝から何か変ですよね。う〜ん、まぁ、それはさておき、エル様のご両親や祖父母ってどうしているんですか?」
 どうしているって?
 「俺の両親が死んでいるのは前にも言っただろ? じじい、ばばあは知らないな。会ったことはもちろんのことそんなのがいるとか聞いたこともないな。」
 全然知らない。
 「そう言えば、親戚がいるのかも知らない。」
 そう言えば、ハウンディーアと言う名字も聞いたことがないな。
 「誰もいないんですか。」
 誰もいないか。
 「お前に調べられないんだから本当にいないんだろうな。」
 セラの情報収集能力は物凄いからな。浮気なんて絶対にできない。
 「前に調べたら何人かご親戚の方はいらっしゃいましたけど。まぁ、エル様とは何の接点もないんですけど。」
 調査済みなのかよ。なら訊くなって。
 「エル様のご両親がお亡くなりになられたときのことは覚えていらっしゃるのですか?」
 はい?
 「いや、全く。」
 覚えていません。葬式をやったのかも覚えていません。
 「そうですか。」
 残念そうな顔をしていないな。すでに調査済みみたいだぞ。
 「で、俺の両親はどうして死んだんだ?」
 先手を打って訊いてみた。
 「秘密です。」
 やはり調査済みか。それより秘密ってなんだよ。
 「きっと、すぐに思い出しますから。」
 セラが笑顔を見せる。今の俺にはそれがいつもの笑顔に見えない。本当の感情を隠して作り出したような不自然な笑顔に見える。
 「突然、何でこんな話をしだしたんだ?」
 俺がセラのパソコンを弄ったことがばれていると言う前提でなら予想はつく。
 「ん〜、それはですね・・・。」
 ああ。どう謝ろう。
 「昨晩、私の部屋に入ってパソコンを弄りましたよね。」
 ばれてました。


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