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2004.8.18


第10話 城砦崩壊(3)



 土下座して平謝り。
 「もう。乙女のプライバシーを何だと思っているんですか!」
 さすがにあれを見られたら怒るだろうな。
 「お前、パスワードに“エル様大好き”って設定するか? 俺としても複雑な気分なんだけど。」
 セラの顔が真っ赤だ。
 「私がどんなパスワードにしようがエル様には関係ありません!」
 この際だから『エル様観察日記』をネタに脅してやろう。
 「お前、あの『エル様観察日記』ってなんなんだよ。これを見た時、全身に鳥肌が立ったぞ。ストーカー行為は犯罪だぞ。」
 それにセラの目が泳ぐ。
 「あれは、ですね。えっと、その・・・。」
 何だ?
 「見たら俺が黒馬にスカウトされる前のもあったじゃないか。」
 あのフォルダに丸1年分の俺を観察した日記があった。
 「あれは、仕事です。エル様の行動を監視して報告するように言われているんです。エル様が仕事をサボらないようにって。」
 毎日監視されなければならないほど信用ないのか?
 「アホか。そんなもん止めろ。毎日監視されなくてお仕事はちゃんとするわい。」
 最近は珍しく毎日研究室に篭っているんだぞ。
 「わかりました。それはもうやめます。」
 本当か? あからさまに動揺している時でないとこいつの嘘って見抜けないからな。動揺している時は目が泳いだり、俺から目をそらしたりして分かるのだが、俺の目を見ながら平気で嘘をついてくれるんだものな。
 「そんなことより、あれ見ましたよね。」
 セラが逆ギレしやがった。
 「あれって?」
 セラの隣の席に座りなおしながら首をかしげる。
 「ラグナロク。」
 あ。
 思わずセラから顔をそらせてしまう。あれを思い出したらセラの顔を正視できない。
 「エル様?」
 あれを見た時はマジで退いた。まさかこんな近くにこんなやつがいたとはって。
 「エル様。私、何でもしますから。秘密にしてください・・・。」
 ん?
 「何でもって言ったか。」
 さくっと刺されて殺されるとばかり思っていたのだが。
 「何でもします。私の体が欲しいのでしたらどうぞ。」
 セラが俯いて言う。
 「馬鹿が。こんなことでお前を抱いても嬉しくなんかないわ。こんなことでお前を抱くくらいならもっと早く魔法でお前を拘束してっているわ。」
 何のためにこの9ヶ月もの間、耐えに耐えたか分かっていないようだな。
 「世界が欲しいのなら俺が奪ってくれてやる。」
 あのragnarokと名のついたフォルダに入っていたファイルには世界征服の計画と、十数人の男女の詳しいプロフィールだった。その中にクロウや雷鷲総帥や俺がいた。
 クレストをエネルギー源とした巨大戦艦の建造。世界政府や巨大自治区への裏工作。要注意人物リスト。
 巨大戦艦は物凄い物だった。あれ1つで世界を恐怖に陥れることができるのではないかってくらいの代物だった。外からはありとあらゆる物理攻撃が利かないし、中に潜入してもクレストのエネルギーで不死身と化したモンスターが守っていると言う破壊不可能と思える兵器だった。
 世界政府や巨大自治区への裏工作や要注意人物の抹殺はかなり進んでいて、どう見ても今年中に計画実行へ移せる状態であった。ちなみに要注意人物リストはあの別に置いてあったプロフィールとは違うやつだ。こっちのプロフィールはなんなのかよく分からなかった。
 「あ、エル様。そろそろ出かけないと。」
 すでにいつも出かける時間を過ぎてしまっている。これと言って明確な時間が指定してあるわけではないのだが、9時までには黒馬ビルの研究室に行っていることにしている。あまり早く行ってもシャロンがこないと始まらないから待つことになるのだがな。
 「そんなことより、今日はサボってデートに行こうぜ。前回は途中で襲撃に遭って中止になったから、今日こそはな。」
 セラの手を捕まえて握って顔を覗き込む。俺から目をそらしているものの頬を赤く染めてかわいいことで。
 「さっき、なんでもするって言ったよな。俺とデートしろ。デート。」
 顔を俺からそらしたまま眉間にシワを寄せて目だけこっちを向く。眉間にシワが寄っているもののあまり嫌そうではない。
 「仕事をちゃんとしますって言ったばかりじゃないですか。」
 それか。
 「それはそれ。これはこれ。1日くらい別にいいじゃねぇか。シャロンなんて丸1月サボったことがあるじゃないか。」
 行方不明から帰ってきたときの姿は少し驚いたね。長い髪をばっさりと切ってショートカットにし、メガネをかけて、服装も露出を抑えたまともなものを着ていた。一見、誰か分からなかったほどだった。まぁ、姿が変わっても中身はすぐに変わらないもので、すぐにシャロンだと確信できた。
 「あれはずっと尊敬していたモッチョン博士の死があまりにもショックだったからですよ。しばらく生気が抜けてしまったみたいになっていたじゃないですか。」
 そう言えばな。
 ちゃんと炭になったモッチョン博士の遺体は回収され、盛大に葬式が行われたらしい。モッチョン博士の研究所地下の遺跡(モッチョン遺跡と名付けられることになった)から手に入れたデータと格闘していて気付いたら終わってしばらく経っていた。セラは少し覗きに行ったらしく世界中の魔法研究家が大勢来ていたそうな。一部、俺を目当てに来ていた連中もいたらしい。
 「お前もこのままじゃ仕事に差し支えるだろうが。俺が付き合ってやるからな。」
 真面目なセラはサボって遊びに行くと言うことを知らない様子で、説得に苦労したもののデートに連れ出すことに成功した。


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