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2004.9.12


最終話 世界征服(1)



 これまでのあらすじ。
 俺様、エル・ハウンディーアは天才魔法研究家として世界征服を企む悪の組織“Black Horse”(通称“黒馬”)にスカウトされた。
 スカウトに来たセラ・ベルガナが好みのかわいい女だったので、一緒にスカウトに来た世界平和を推進する正義の組織“Lightning Eagle”(通称“雷鷲”)の誘いを断り、悪の組織の誘いを受ける。
 悪の組織の一員となったが、いずれはこれを乗っ取って俺様が世界征服をしてやろうと言う野望を抱きつつ、古代魔法文明遺跡に行ったり、魔法書を解読したりして魔法研究に励むのであった。
 そんなある日、エルフの住むアルフヘイムと言う所を訪れ、そこで出会ったフレリア・アツァリオからクレストの存在について聞く。その後、フレリアはアルフヘイムで管理していたのに行方不明になったクレストを探すべく村を出て、俺の家に滞在することになる。
 それから、魔法研究に励むものの公表できるような研究成果があげられず、戦闘員として使われてしまうことに。まぁ、そのおかげでリリス・アーツァブスって言う女を奴隷にすることになったからよしとしよう。セラにガードされて何もやらせてもらっていないのがあれなんだけど。
 色々あってセラといい雰囲気になって、やっとのことでベッドインに成功したのであった。
 その途中、物凄いことが発覚した。
 セラの両親および俺の両親を殺したのは、実の所、俺だったらしい。なんか記憶を封印されているとか。
 さらに俺様の体にライフクレストと呼ばれるクレストが憑いていることが判明した。背中のちょうど死角になる所にうっすらと紋章が浮かんでいるではないか。20年以上生きていて全く気付かなかった。
 そんなことで銃を突きつけられたのだが、大丈夫だった。
 最初は無理目だったセラも俺の魅力に落ちたと言うことだな。
 そして、朝。
 「んん?」
 あまりなじみのない天井。そう言えば、昨日はそのままここで眠ってしまったんだったな。帰る前にもう1回したいな。
 「あら?」
 隣で眠っていたはずのセラの姿がない。先に起きてシャワーでも浴びているのかと思ったが、そんな気配もない。
 「おう?」
 あいつの服とか荷物もねぇじゃねぇか。
 「逃げられた?」
 セラったらてれちゃってかわいいんだからなぁ。
 とりあえず、シャワーを浴びて服を着る。
 「ん?」
 ポケットに何か入っていた。メモだな。

 『ごめんなさい さよなら』

 はい?
 セラの字だ。
 「マジか!」
 部屋の外やホテルの周りを探してみるが、隠れている様子はない。転移方陣で俺の寝室に瞬間移動する。
 「セラ!!」
 通過方陣で壁を通り抜け、セラの部屋を覗いてみた。しかし、帰ってきた様子はない。
 「クソ!」
 ドタドタとリビングに駆け込む。TVの前にリリスとフレリア、そして長い黒髪の後姿を確認する。
 「セラ!」
 俺の声に黒髪が振り向く。しかし、男だった。
 「クロウ! こんな所で何をしてんだ! 紛らわしいわぃ!」
 よく見たらルーファとマルコスもいるじゃねぇか。
 「おう。エル。何でそっちから出てくるんだ?」
 寝室に直接飛んだからな。玄関は通っていない。玄関と寝室はリビングを挟んで逆の位置にある。
 「セラは帰ってきたか!」
 皆して首を横に振る。帰ってきていないのか。
 「あの女、こんなメモを残して消えやがって!」
 急いで研究室に行って意識転送陣の魔法カードを用意する。
 「俺から逃げられると思うなよ!」
 絶対に捕まえてみせる。
 椅子に座って意識転送陣を発動。セラの元へ意識を飛ばす。

 ここは・・・?
 きょろきょろと辺りを見渡してみた所、何かの操作室のようだ。たくさんのモニタや計器、ボタン、レバーなんかがあって、何人ものオペレーターがそれを操作している。
 いた!
 セラを発見。壁に寄りかかってオペレーターが操作している姿を眺めているだけのようだな。
 「スルト、発進準備が完了いたしました。」
 オペレーターからそんな声が聞こえた。
 「発進しろ。世界を恐怖に陥れ、我々の前に跪かせるのだ!」
 なんか男が凄いことを言っていたぞ。なんか嫌な雰囲気。
 オペレーターの「発進します」と言う声に辺りが揺れ始めた。ここってそのスルトっていうやつのコントロールルームとかか何かなのだろう。
 まぁ、どんなのが来ても俺の魔法で落す自信があるからいいのだが、あの偉そうな男は誰だ? きょろきょろとそれらしい男を探してみたら白髪のなかなかかっこいい中年の男が偉そうにしているのを見つけた。
 サンチョスじゃん!
 そう言えばいつもクロウの側にいるはずのサンチョスが、さっきクロウを見かけた時には見えなかったな。
 セラはぼーっとオペレーターの様子を見ているだけだな。それに気がついたサンチョスがセラに声を掛けてきた。
 「どうした? らしくないな。」
 サンチョスに声を掛けられてセラが笑みを作る。見たこともない冷たい印象を受ける笑顔。こんな顔もできたのだな。
 「今までのことを色々と思い出しちゃって。ガラにもなく感傷に浸ってたわ。」
 こつこつと足音を立ててセラがサンチョスの隣に歩み寄る。そして、サンチョスがそのセラの腰を抱き寄せる。

 ぶっ殺す!

 あの野郎! 俺のセラから離れろ! 貴様には別に妻がいるだろうが!
 セラも平気でそんな男に体に触れさせるな!
 「今日、我々は世界を手に入れる。全てが手に入る!」
 いやぁ〜ん。世界征服ですか? 俺がもうちょっとで準備が整うって所だったのに先を越されてしまった。
 「ふふ。後はあなたに任せて部屋で休ませてもらうわ。ここに来てなんだか疲れが出てきちゃったみたい。」
 セラがサンチョスの腕から抜けてそのまま部屋を出て行く。サンチョスはその背中を黙って見送る。
 部屋の外は廊下だった。周りは金属の床と壁で、どこかSF物のTVで見た宇宙船の廊下を思い出させる。
 「ふふ・・・。皆、焼き払って。かつてあなたがアスガルドを焼き払ったように・・・。」
 やぁ〜ん。なんか言ってるぞ。
 それから少し不気味に笑いながらふらふらと廊下を歩いて寝室に向かった。部屋に入るなりベッドへうつ伏せになって、そのまま寝息を立て始めた。
 その寝顔は酷く疲れているみたいに顔色が悪かった。

 しばらくセラの寝顔を眺めていたら魔法の効果が切れて、意識が体に戻ってしまう。
 「なんかやばいことになっているみたいじゃねぇか。」
 スルトってなんだよ。
 「そう言えばクロウたちが来てたな。」
 何しに来たんだ?
 とりあえず事情くらいは聞いてやるか。サンチョスとスルトに関して聞けるかもしれない。知らなかったらクロウに調べさせるまでだ。
 研究室から出てリビングに向かう。


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