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2004.9.9


最終話 世界征服(2)



 「エル。ちょっと聞いてくれよ。サンチョスのやつがついに裏切りやがったんだ。」
 クロウが俺を前にしゃべりだした。
 「そりゃ、お前みたいなゲイの相手をさせられていればなぁ。誰だって逃げたくなるって。」
 サンチョスは少し歳が行っていても昔はその顔で女をたくさん侍らせていたって言う話だからな。
 「だから、何度も言っている様に俺はゲイじゃねぇって。別に男が好きだからサンチョスを側近にしていたわけじゃないんだぞ。できることならばかわいい女の子を秘書にしたかったさ。」
 そう言いつつ、リリスの隣に移動して肩を抱き寄せるやつ。リリスがそれに嫌そうな顔をする。
 「お前もそう言う風に思っちゃうわけな。はぁ・・・。」
 なんかクロウが素直にリリスから離れたな。溜め息なんてついて。
 「エル。俺が人の考えていることを読めることを知っているな。」
 この発言に普通にしていたフレリアとリリスが驚いた顔をしてクロウから少し離れた。ルーファとマルコスなんかは元々かなり離れた所に座っているし。
 「皆、これだよ。俺が思考を読めることを知って距離を置かないやつなんてお前くらいなものだって。それとサンチョスな。」
 サンチョスは側近として常に側に控えていなければならない立場だし。
 「いつまでもお前がゲイ呼ばわりするからサンチョスを側近にしている理由を教えておいてやるわ。この理由がなければあんな男なんて側近にしないぞ。」
 俺なら絶対に巨乳で金髪か黒髪の美女。
 「俺もできれば巨乳で金髪の美女がいいなぁ。」
 うんうん。合間を見てあんなことやこんなことを・・・。
 「うんうん。権力を持った当初はそれを期待して巨乳で金髪の美女を秘書にしたんだが、この思考が読める能力のおかげで・・・。」
 気持ち悪くてあまり長続きしないだろうな。
 「そんなわけでサンチョスが側近になったのよ。」
 ほほう。頭の中が読まれても気にしないほど図太い神経をしていたとかだろうか。
 「あいつってばなぜか知らないけど俺の能力がさっぱり利かないんだよ。俺のマインドリーディングとかサイコキネシスとか全然。あいつも何かの特殊能力者っぽいな。俺の能力が利かないから安心して側に置いておけるやつだったんだけど、それが仇になって昨日の夜に暗殺されそうになった。」
 ガーン!
 「何それ?」
 このクロウを暗殺しようなんて命知らずな。
 「命知らずって俺の能力が利かないから返り討ちとかにできないんだって。死んだ振りをしてやり過ごした。」
 死んだ振り? このクロウが死んだ振りをしなければならないほどのやつなのか。
 「いやぁ、咽笛と心臓をナイフでやられてやばかったぜ。危うくマジで死ぬ所だったぜ。」
 咽笛と心臓って。
 「何? 咽と心臓をナイフで切られたのか? 普通は死ぬぞ。」
 よく見ると咽にうっすらと横一文字に切り込み痕みたいなのが付いているじゃないか。
 「警備の連中が来てくれなかったら出血多量でぽっくりと逝ってたなぁ。ボーナスを出しておかないと。まぁ、サンチョスが行った後に傷口を俺の能力で塞いで輸血してもらってこの通りよ。」
 化け物だ。
 心臓を刺されてこんな元気にしているやつだなんて。
 「お前に化け物呼ばわりされたら泣くぞ。」
 お前がそんなことで泣くような男のはずがないだろうが。
 「ま、そう言うことでルーファとマルコスを連れてここに隠れさせてもらっているわけよ。ほとぼりが冷めるまで厄介になるぞ。」
 そんな勝手な。
 「まぁ、いいか。あのベランダと反対側の客間が空いているから。ちょうど2人部屋だし、マルコスと寝てくれ。」
 それにクロウがあからさまに嫌そうな顔をする。
 「何でこんなに女の子がいるのにわざわざ野郎と相部屋にならなけりゃならないんだ?」
 それならば理由は簡単だ。
 「3人とも自分の部屋があるし。」
 客間は元々3つあったのだが、1つはルーファが最初から私室かしてしまったし、1つはリリスがここの住み始めたことで開けたし、残る客間は1つだ。
 「何? ルーファの部屋まであるのか!」
 最近は月に3回くらい泊まりに来るからな。着替えとかが置いてあるから手ぶらで来るし。
 「俺は黒馬の総帥だぞ? せめて個室を用意しろ!」
 こんな所で権力の乱用を。
 「ヤダ。セラがいないから部屋の用意ができないって言うのが本当の所なんだけどな。」
 一応、家事はリリスがやってくれるのだが、家の管理とかと言うのはセラが全部やってくれていた。
 「そのセラはどこに行ったんだ?」
 セラに部屋を用意させるつもりなのか?
 「あ、そうそう。セラで思い出したけど、セラがサンチョスといるみたいなんだよ。そのサンチョスがお前を暗殺しようとしたってことはセラも?」
 それにクロウたちが絶句してしまった。
 「何故にセラまで!」
 突然、クロウが叫びだした。
 「何でセラがサンチョスのやつと一緒だって分かるんだ! 不倫か!」
 不倫って。
 「あ、俺もそのことでセラに問いたださなくちゃならないぞ。なんか“スルト”ってやつのコントロールルームにいるみたいなのだが、なんなのか知らないか?」
 それにまたクロウが絶句した。
 「スルト? 北欧神話に出てくる炎の巨人のことだな。兵器の名前かな?」
 あ、そう言えば。
 「セラのパソコンにラグナロクってフォルダがあったんだけどな、その中に巨大戦艦のデータがあって、その戦艦の名前が“スルト”だったな。」
 あんまり詳しい所までは覚えていないのだが、圧倒的な火力と防御システムに驚いたのを覚えている。
 「セラのパソコン?! どこにあるんだ? ん? 訊くまでもなかったな。」
 セラの私物なんてセラの私室にしか置いてないわ。
 「鍵がかかっているぞ。」
 俺は入れるけど。
 「俺が中にテレポートして鍵を開けてやる。」
 便利な能力だな。


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