TVをつけたら巨大戦艦が地上を焼いている様子が映し出されていた。かなり遠距離からの撮影のようだが、スルトの大きさは尋常ではなかった。
「でっかいなぁ。」
地球侵略に来た宇宙人の母艦じゃないんだからあの大きさは反則だろう。
「エル。あれを魔法で落せるか?」
落せるかって。
「そもそもあれに書いてあることが本当だったら俺の魔法なんて利かないだろうが。」
俺の魔法についても対策が立てられていた。魔法文明に存在した最強のクレストであるデッドクレストのエネルギーを防御シールドにまわしているらしい。デッドクレストに並ぶもう1つの最強のクレストであるライフクレストが俺に憑いているとは言え、他にも4つのクレストがついているのだから俺の魔法では太刀打ちできない。
「面倒だな。」
俺ならそのシールドを素通りして乗り込めるけどな。
「まぁ、俺のテレポートをで中に乗り込んで、動力部を直接叩くって言う手もありだな。」
外から攻撃できない以上、中から攻撃するしかないものな。
「私も連れて行ってください!」
フレリアが話しに割って入ってきた。
「私はあの船にあるデッドクレストを封印して持ち帰らなくてはならないのです!」
持ち帰ればアルフヘイムの長になれるんだものな。
「いや、俺のテレポートは他に誰かを連れて飛ぶなんてことはできないんだ。」
それは不便だな。
「エル様。どうにかなりませんか。」
どうにかって。
「俺の魔法でもあの強固なシールドを他のやつを連れて通るなんてことはなかなかできないぞ。」
それにフレリアがしゅんっと俯いてしまう。
「あのぉ〜。シャイリース様に頼むって言うのはどうですか?」
リリスが控えめに何か言っている。シャイリース?
「シャイリース様の聖剣技は時空をも切り裂けるんですよ。防御シールドがいくら強力でもシャイリース様に切れない物はありません。」
それはそれは。でも、あのキザ野郎の手を借りるなんて嫌だな。
「この際だからしょうがないか。」
リリスが連絡をいれて2時間ほどでやってきた。10日にリリスと会った後、こっそり観光でウィングス内に滞在していたとのこと。変装で2人とも髪を黒く染めて髪型を帽子で変えていた。ウィングスは黒馬の本拠地でシャイリースはその黒馬が警戒する雷鷲最強の戦闘員だからな。
「あれは何だ!」
TVのスルトを見るや否やシャイリースが眉間にシワを寄せて殺気立つ。
「なんか世界征服を企む第3勢力の巨大戦艦。名前をスルトと言う。」
TVでは地球を侵略しに来た宇宙船とか言っているが、ちゃんと地球製の船だ。
「ニューヨークに帰らなくて正解だったな。ここからならすぐに現場に行ける。我が聖剣技で叩き落してくれるわ。」
おお、頼もしいなぁ。
すぐに戦闘準備を整える。今回は俺、フレリア、シャイリース、ルーファ、マルコスの5人で乗り込む。リリスとオグちゃんはお留守番だ。2人とも後方支援が専門であの警備兵を相手に自分の身を守れずに足手まといになりそうだからだ。クロウは何か考えがあるらしくて別行動だ。
問題のスルトは地中海にある工場を発進した後、イタリア半島を縦断してまっすぐにこのウィングスへ向かっているとのことだ。しかも、間もなくそのウィングスへ到着してしまう。
「あれだな。」
マンションの屋上からスルトが望遠鏡で確認できた。
「あの速度だとウィングスに到着するまで1時間って所か。」
そこへ黒いヘリがこっちに飛んできた。いくらなんでもあの高度で飛ぶ船へジャンプで乗り込むことはできないので、黒馬からヘリを借りた。
「えっと、ヘリであの船の上まで飛んで行って、スカイダイビングで乗り込むんだったよな?」
空からあ〜って飛び降りて何が楽しいのか。ダイビングの経験なんてガインにハイジャックされた飛行機から脱出した時のやつだけだぞ。
「私とマルコスでサポートするから安心しなよ!」
ルーファが俺の背中を叩く。かなり痛い。
「サポートって何するんだ?」
そう言えばTVとかで素人の後ろにプロがくっついて2人で飛ぶのがあったな。
「ちゃんとマルコスが飛んでくれるよ。」
え?
「マルコス?」
ルーファがいいなぁ。色気がなくとも一応は結構な胸をしているからな。
「私はフレリアをサポートしないといけないし。」
あ、そう言えばフレリアはダイビングの経験がなかったな。
「マルコスが背中にくっつくくらいなら魔法で飛んでみせるわ!」
空を飛ぶための魔法、飛行方陣はいまだに不安定なのだがな。短時間の飛行ならば大丈夫だろう。
「あ、そう?」
ルーファとそんなやり取りをしている所でヘリがマンションの屋上へ着陸する。このマンションにはちゃんとヘリポートがあるのだから凄いな。
「よし、行くぞ。」
シャイリースが偉そうにしてヘリへ乗り込む。思い切りリーダー気取りだな。多分、雷鷲でこなすどの任務もリーダーとして部下を引っ張っていたのだろうな。その癖が出ているのだろう。
しかし、気に入らないな。
「足手まといになるなよ。キザ野郎。」
ヘリに乗り込んで中に座っていたシャイリースに向かって中指を立てる。それにシャイリースが睨みつけてくる。
「ふん! 魔法しか能のないお前の方が足手まといになるんじゃないのか?」
魔法しかって。
「ははん。自分は剣しか使えないのにそれを棚に上げてよく言うぜ。」
それにシャイリースがこめかみに青筋を立てて反応する。図星のようだな。
「それじゃ、オグちゃん、リリス! 行ってくるぜ。」
5人乗り込んだ所でヘリが飛び立つ。それをオグちゃんとリリスが見送ってくれる。
おお! なかなかのスピードが出るのだな。高度も凄い。
さすがは世界が誇る黒馬が作ったヘリだ。性能がいいなぁ。
「おい。近付く前に撃墜されないようにしっかりとシールドを張っておくのだぞ。」
シャイリースがふんぞり返って俺を睨みつけて偉そうに言う。
「貴様に言われなくてもやるわ。どんな攻撃も俺の防御シールドを突破できない!」
モッチョン博士からもらったデータを参考に作り上げた最強の防御魔法だ。いくら最強のクレストであるデッドクレストのエネルギーを使っていてもこのシールドは破れない。
「行くぜ! 超強力結界方陣!」
ネーミングセンスがワンパターンだが、気にしないで欲しい。
俺たちの乗るヘリが球形のシールドに包まれる。シールドに包まれたままへリが飛ぶのだからなかなか凄いな。
「あ、撃ってくるみたい!」
なんかルーファが楽しそうにしている。巨大戦艦スルトの砲門が俺たちの乗るヘリに向けられた。
「あれって何口径あるんだ?」
デカ!
なんか、5mくらいはありそうだな。5m口径キャノン?
「うぉ!」
ビームだ! ビーム光線だ!
砲門から放たれたのはまばゆい光の帯。一直線にヘリへ向かって伸びる。そして、ヘリに直撃する。
「こんなものだな。」
振動もない。スルトから放たれたビームはヘリを包むシールドが全て弾き返した。
「ほほう、なかなかやるものだな。」
シャイリースが珍しく人を褒める。少しくらいの振動を予想していたのだろうが、その振動が全くないからな。
「進め!」
俺たちの乗るヘリがさらにスピードを上げる。
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