BACK / TOP / NEXT

2004.9.14


最終話 世界征服(6)



 シャイリースのおかげで何の問題もなく4つのクレストを解放する。それでエネルギー供給の減った防御システムが目に見えて弱くなっていく。強力なシールドに阻まれて近付けなかったブロックへの侵入が可能となった。
 「ラスト1個!」
 しかし、そろそろ魔法カードが尽きてしまう。どこかで補給したい。もう転送方陣は尽きて普通に攻撃魔法で蹴散らしたり、幻術魔法で足止めしたりと言ったことになっている。その魔法カードも残りわずかだ。
 ああ、せっかく俺の体にライフクレストなんて最強のクレストの1つが憑いているのに。なんで魔法カードを使わなければその力を使うことができないのか。
 セラから聞いた話によると、俺の記憶を封印する時にクレストも封印したとか言っていたよな。その封印のせい?
 多分、セラはこの封印の解き方を知っている。これが済んだら訊いてみるか。

 「あれか。」
 なんか今までの武骨な扉とは違ってファンシーなデザインの扉だな。やはりクレストの憑いているのが女の子だからか。
 「うぉ!」
 先頭を突っ走っていたシャイリースがいきなり転んだ。スピードがついていたからかなり痛そうだ。
 「な、何かに足をつかまれた!」
 そんな言い訳を。疲労で足がもつれたんじゃねぇのか?
 「きゃあ!」
 今度はルーファが悲鳴を上げた。
 「な、なんか冷たいのが首に触った!」
 ん?
 「それって・・・。」
 ・・・。
 あ。なんか白いのが壁から出てきた。
 「スピリットタイプのモンスターでしょうか。」
 普通に幽霊だと思うのだが・・・。
 「そりゃなぁ。幽霊をモンスターと割り切ってしまえば全く恐くないよな。」
 たまに魔法文明の遺跡にこう言う半透明でどう見ても幽霊にしか見えないモンスターが出るんだってな。気体のモンスターだから物理攻撃が利かないのだけれど、火に弱かったり、温度を下げてやると実態を現したりするらしい。
 「あんまり殺気立たなきゃ大丈夫みたいだな。」
 敵意を見せなければ何もしてこない様子だ。
 「ここにはあんまり物騒な物を持ち込めないな。俺とフレリアだけで行って来るから、ここで待機してて。」
 俺には一応、この先にいる女の子に憑いているデッドクレストと同格のライフクレストが憑いているからな。それに武器はエルウィップって言うここではあんまり役に立たなかった鉄の棒があるだけでほとんど丸腰だ。
 フレリアはデッドクレストの封印に必要だからな。一応、ルーファに剣を預ける。
 「ん? 鍵がかかっているな。」
 まぁ、普通だな。
 「壊しますか。」
 中にいるのは5歳くらいの女の子だぞ? そんなことをしたら女の子が恐がって幽霊たちが襲ってきそうだ。
 「俺が入って中から開けるよ。」
 魔法って便利だな。通過方陣でドアを素通りする。
 「うぉ!」
 入ってはいけない領域だった。
 「おじちゃん、だぁれ?」
 セラのパソコンに入っていた資料で見た少女だ。白い服を着たなかなか将来有望そうなかわいい女の子だ。
 しかし、その周りは真っ黒だ。それも全部半透明だ。思い切り幽霊じゃん!
 「おじちゃんはエルって言うんだ。君は?」
 まだ24歳でおじちゃんと言われるには早いような気がするが、小さな女の子が言うことだ。気にすまい。
 「あたし、シャルルっていうの! エルもあそんで!」
 うぉ! 体を何かにつかまれた。
 くっと横を向いたら半透明の黒いやつが肩につかまっていた。全身幽霊供に捕まえられちゃったぞ!
 「えーっと、なんだ。俺の体につかまっている連中をどうにかして欲しいな。重くて動けん。」
 マジで動けん。
 「あ、うん! みんな、エルをはなしてあげて!」
 シャルルが言うと急に体が軽くなった。俺の体につかまっていた幽霊たちが離れていったのだ。
 「ふぅ。」
 とりあえず、入り口の鍵を外す。それにフレリアが入ってくる。
 「こんにちわ。」
 フレリアが笑顔でシャルルにあいさつをする。それにシャルルも「こんにちわ」って返してくる。なかなかかわいいなぁ。ロリコンではないのだが、周りが周りだけにシャルルが天使に見える。
 「おばちゃん、だぁれ? エルのともだち?」
 それにフレリアが一瞬、強張る。おばちゃんと言われて平気でいられるような広い心は持っていなかったか?
 「そう、おねえさんはフレリアって言うのよ。」
 やはりおばさんと言われたくないらしいな。実際は100歳近いくせに。
 「ねぇ、あそんで!」
 ちょっとくらいいいか。
 「よし、何して遊ぼうか。お医者さんごっこ?」
 それにフレリアから鋭いツッコミが入る。脇腹が痛い。
 「おいしゃさんごっこ? いいよ!」
 やるのか。提案はしてみるものだな。フレリアがどうしようかとおろおろしている。
 「あたし、びじんドクターやるからフレリアはじょしゅのナースね。エルがクランケ。」
 え。
 「オペをします。そこによこになってください。」
 え。
 「先生。診察もなしにいきなりオペっすか?」
 お医者さんごっこと言えば診察の真似事であんなことやこんなことをするやつじゃないか。
 「エルは急性盲腸炎できゅうきゅうしゃではこばれてきたの! すぐにオペしないとたすからないの!」
 はい。
 勢いに負けて横になってしまう。
 何で急性盲腸炎なんて言葉を知っているのだろうか。
 「オペをはじめます。メス。」
 シャルルがそう言ってフレリアに向かって右手を出す。
 「消毒もなしにいきなりメスっすか! って、うおおおお!!」
 上からいきなり無数のメスが降ってきた。その全てが俺を守るシールドに阻まれるが、俺じゃなかったら死んでいたぞ。
 「メスがとおらない。なんてがんじょうなひふなのかしら。ハサミ。」
 次はハサミか!! もちろん弾き返します。
 「レーザーメス。」
 レーザー?!
 「ぬお!」
 いくら俺のシールドでもレーザーは通します。何でこんな所に医療用レーザーがあるのか。間一髪で回避する。
 「よけないでください。それじゃオペをつづけられません。」
 腕で×を作って拒否する。
 「ヤメ! こんな遊びじゃ死んでしまう!」
 それにシャルルが首をかしげる。
 「エルってしんでなかったの? みんなみたいにドアをとおりぬけてきたからみんなとおなじでしんでんだとおもってた。」
 おい。
 「よく見ろ! 透けていないだろう? その前に、幽霊相手でもあれはいけません!」
 シャルルが不服そうに頬を膨らませる。全く、誰なんだ? あんな遊びを教えたのは。
 「もっと安全な遊びは・・・。お、TVゲームがあるじゃん。これにしよう。」
 ぽちっとスイッチを入れてみた。そこに映ったのは恨めしそうな白い顔だった。
 「あ、それ。こわれてるよ。」
 それを先に言って。画面からなんか髪の長い白いやつが出てきちゃったよ・・・。ああああ。魔法で退治しちゃダメ?


BACK / TOP / NEXT