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2004.9.15


最終話 世界征服(8)



 「やっぱり来ちゃったんだ。」
 セラだ。
 「セラおねえちゃん!」
 セラの姿を確認したシャルルが俺の手を振り解いて駆け出す。セラは屈んでそれを迎える。
 「もう、あの部屋から出てはいけなかったのに。いけない子ね。」
 とか言いつつも笑顔なんだよな。かわいいのには甘いんだよなぁ。
 「セラ、帰るぞ。」
 俺もセラに向かって歩き出す。
 「もうあなたにはお別れを言ったのに。しつこい男ね。」
 セラが立ち上がって俺と向かい合う。
 「好きになった女のことについてはとことんしつこいぞ。」
 欲しいものは絶対に手に入れる主義だ。
 「私はあなたが思っているような女じゃないわよ。」
 セラが普段見せないような冷たい表情で言う。それにシャルルも少し戸惑った様子を見せる。
 「俺がお前のことをどう思っているのか知っているのか?」
 絶対に知らないな。
 「そうね、美人でスタイルがよくて、家事が上手くて、世話好きで、働くのが好きで、少し裏のある女、と言ったところかしら?」
 う〜ん。自分で美人でスタイルがいいとか言っちゃうのな。まぁ、事実だからしょうがないが。自分で言うと言うことはその美貌とスタイルをキープするのにそれなりの努力をしているのだろう。
 「う〜ん、まぁ、半分くらい正解かな? あと、寂しがり屋で、かわいいものが好きで、スピード狂で、目的のためなら平気で自分を犠牲にするような被虐思考で、それから・・・。」
 セラが俺から目を離してうつむく。
 「俺のことを愛してる!!」
 それにセラが吹き出す。その瞬間、セラから冷たい印象が消える。
 「エルってばいつもそんなのばっかり。」
 後ろの連中も笑っているな。
 「お前が俺のことを愛しているって判断する根拠がいくつかあるしな。」
 それにセラが少し驚いた顔をする。
 「そんなのがあったかしら?」
 分かっているのに訊いている顔だな。
 「えー、まず第一に俺のプレゼントしたそれをいまだに着けていることだな。」
 服の下に入れてあるが、俺には分かる。
 「これはそう、前みたいに防弾チョッキを着けなくても済むから。」
 まぁ、前の防弾チョッキよりは軽いし、高性能だな。
 「寝る時くらい外せよ。防弾チョッキは寝る時に外していたじゃないか。防弾チョッキよりは邪魔にならないといっても結構でかいのだから寝る時は邪魔だろうが。」
 それにセラが赤面する。
 「第二に俺を殺さなかったことだな。この前のデートの時なんて絶好のチャンスだったじゃないか。この侵略戦争は俺の魔法がなければ確実に成功していたはずだ。ちゃんとあの計画書に俺の名前が暗殺リストに入っていたしな。」
 しかもクロウとかフィネルソスと並ぶ最大危険ランクで。
 「他にも同棲生活中に色々と根拠になる態度を見せていたからな。まぁ、決定的なのが・・・。」
 セラは顔を真っ赤にしてまだあるの、と言わんばかりに少し引く。
 「俺が初めて本気で愛した女だからだ!!!」
 他の理由なんておまけだ! これが何よりも大きい!
 「もう、バカ!」
 セラったらてれちゃってかわいいんだからなぁ。
 「ほら、意地張ってないで帰るぞ。」
 セラに向かって手を伸ばす。
 「ごめんなさい・・・。」
 はい?
 「エルのこと好き。愛してる! でも、行けない。さよなら!」
 あ。
 セラが俺に背を向けて走り去っていく。
 「あ、待て!」
 慌ててそれを追う。

 セラを追って行ったらどこかで見たような部屋に来てしまった。そう、ここはコントロールルームだ。
 「待てや!」
 この部屋に出入り口は1つだけのはず。
 「もう帰って! いまさら私だけ抜けられないの!」
 抜けられないのって。
 「このラグナロクって計画から抜けられないから俺と別れるとか言わないよな?」
 否定しない。ああ。
 「セラも私と同罪。この船と運命を共にするのだ。」
 セラの隣に男がやってくる。サンチョスだ。
 「失せろ!」
 思い切り右ストレートパンチを顔面にくれてやる。もろに入って3mほど吹き飛ぶ。
 「あんなゲイの相手にされるのが嫌で世界を滅ぼそうとした暗いやつなんて放っておけばいいんだよ!」
 なんかサンチョスが起き上がってこないのだけれど。
 「だから俺はゲイじゃないって言っているだろうが!」
 あ、クロウ。
 「はい。私の調べでも彼はゲイではありません。」
 セラの調査でもクロウはゲイじゃないって調べがついているのか。
 「むしろゲイは向こうだ!」
 向こう?
 「え。サンチョスってゲイだったの?」
 うっそん。
 「昔、散々女遊びをしたせいで女に興味がなくなってしまったみたいです。それから一目惚れした相手に振られたことからこの計画を始めたんです。」
 え。
 「その相手って・・・。」
 セラがさりげなく1人を指差す。その先は・・・。
 「マジ!?」
 一同が一斉にその男を見る。
 「まさかそんなに思いつめていたとは・・・。」
 クロウ・ウィザード。サンチョスが常に側に控えていた男だ。
 「クロウ。あとは2人でゆっくりじっくり話し合ってくれや。皆、行くぞ。」
 セラとオペレーターたちを連れて部屋から出る。その後、クロウがサンチョスをどうしたのかあえて覗かないでおいた。ボーイズラブなんて見たくはない。

 「それでセラ。お前がこの計画に参加したのって両親の敵を討つためだろ?」
 船から脱出するための小型船に着いた所でセラに訊く。
 「あ、知っていたのね。予想外に鋭いわね。」
 予想外って。
 「その敵を討つために10年近く修羅の道を歩んできたのにそれを好きになっちゃって殺せなくて無性に悔しくてもう生きていく気がしなくなっちゃって。」
 そこまで思いつめていたのかよ。
 「エルが迎えに来てくれていい復讐の方法を思いついちゃった。」
 え。
 しばらくしてクロウから通信が入る。先に脱出してくれて構わないと。2人がどうなったのか聞きたくないのでさっさと通信を切って出発する。
 世界を焼き尽くそうとした巨大戦艦スルトは地中海に落されるのであった。


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