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2004.9.15


最終話 世界征服(9)



 「さて、クレストを封印させてもらうわ。」
 フレリアが手にガラス球を持ってシャルルに近付いていく。それにシャルルが首をかしげる。
 「待って、フレリア。今、そんなことをしなくてもいいじゃない。」
 セラがシャルルを抱き寄せてフレリアに言う。
 「どうして? クレストの力は強大でとても扱い切れるものではありません。いつ暴走するかもしれない危険なものなのです。すぐにでも封印してしまわないといけません。」
 しかし、セラは納得しなかった。
 「お願いだから少し時間をちょうだい。あなたがエルフの村を出たのはこの子に憑いたクレストを封印するためなのは知っているわ。でも少し待って。せめてお別れくらい言わせてあげて。」
 お別れ?
 「そう言えばセラはシャルルにデッドクレストが憑いているってかなり前から知っていたんだよな。フレリアにクレスト捜索の協力を頼まれていたのに秘密にしていたんだよな。いつから秘密にしていたんだ?」
 かなり前みたいだが。
 「フレリアに会う前からこの子にデッドクレストが憑いているって知っていたわ。サンチョスがこの子を見つけて連れてきた時から。知っていたけどこの子のことを思うと言い出せなくて。」
 大分シャルルのことを気にしている様子だな。
 「ああ、あれのせいだろ。」
 指差す先に2人の幽霊がたたずんでいる。
 「あ、シャルルの両親・・・。」
 デッドクレストの力のおかげでこうしていられるのだからな。デッドクレストを封印してしまえば両親の幽霊とお別れになってしまう。
 「ずっとこのままではいけないわ。こんな幽霊たちに囲まれていてはダメ。」
 所詮、幽霊は体を持たない実態のない存在。さっさと成仏させてやった方がいいよな。
 「シャルル、聞いて。あなたはこれからあの両親の幽霊にお別れをしなければならない。」
 フレリアが屈んでシャロンと同じ目線で諭すように言う。それにシャロンが首をかしげる。
 「あなたはこの幽霊たちと別れなければならない。なぜならあなたは彼らとは違って生きているのだから。生きている者は生きている者と生活しなければならない。あんなすでに死んでいる者たちといつまでも一緒にいてはダメ。」
 フレリアが説得を続ける。
 「さぁ、言って。さよならって。」
 シャルルがじっと両親の幽霊を見詰める。
 「さよならっていったらもう会えないの・・・?」
 シャルルの両親の幽霊が少し寂しそうに笑う。
 「もう会えないけど彼らは天国に行ってずっとあなたを見守っていてくれるわ。天国は暖かい所よ。この世に幽霊として漂い続けるなんてとてもつらいことよ。さぁ、お別れを言って天国へ見送ってあげなさい。」
 シャルルの目に涙が浮かぶ。それでも手を振る。
 フレリアがガラス球をシャルルの体に当てると黒い何かをシャルルから吸収し始める。ガラス球が黒い何かを吸収して黒く染まっていくに連れてシャルルの周りに漂っていた幽霊たちが散り散りに消えていく。
 「バイバイ・・・。」
 シャルルの体からすっかり黒い何かを吸収してしまうと同時にシャルルの両親も他の幽霊と同じ様に消えてしまう。
 「クレストの封印は完了したわ。」
 両親の幽霊が消えたことでシャルルがわんわん泣き出してしまった。それをセラが抱きしめる。
 「彼らの代わりに私が一緒にいてあげるわ。」
 かわいいのが好きだから放って置けないんだよな。セラはそう言う女だ。
 「もれなく俺も一緒にいてやるぞ。」
 シャルルの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
 「そう、ずっと一緒。新しいパパとママになってあげるわ。」
 シャルルがそれに笑顔を見せて頷く。
 「ほらパパだぞ〜、なんて。」
 家族がまた1人増えてしまった。


 「それでは皆さん、お世話になりました。いつか遊びに来てください。」
 数日後、フレリアが村に帰ることになった。
 「やっぱり帰っちゃうの。寂しいぞぉ〜。」
 本当に行っちゃうのね。
 「新しい家族も増えたんですから、そんなこと言わないでください。それでは、またいつかお会いしましょう。」
 手を振ってフレリアが飛行機に乗り込む所を見送る。南米のアマゾンのど真ん中までなかなか会いに行けないよなぁ。
 「さて、帰りましょう。」
 セラが俺とシャルルの手を引いて言う。
 「いくら長になったと言っても結婚式に呼べば来るよな?」
 それにセラが赤面する。てれちゃってかわいいんだからなぁ。特製のエンゲージリングでも作るか。
 「シャルル。今日の夕飯は何が食べたい?」
 あ、ごまかされた。
 「カレー食べたい!」
 カレーか。シャルルはカレーが好きだなぁ。セラの料理は何でも美味いからいいのだけど。
 俺たち3人に続いてリリスとルーファが続く。2人とも何か寂しそうだ。

 それから数日後、リリスも帰ってしまった。最近はルーファも来ないし、寂しい限りだ。
 家には俺とセラ、シャロンの3人だけになってしまった。
 「セラ。これを受け取って。」
 セラに小さな箱を投げて渡す。
 「これって・・・。」
 箱を開けたセラが思い切り赤面する。今回の指輪も力作だぜ。
 「受け取ってくれるよな?」
 セラが頷いてくれた。


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